[気になる中国企業]AIスタートアップ『ディープシーク(DeepSeek)』

ブログ

中国ビジネス関連で最近では珍しい気もする、明るい話題というか、将来性のある会社が注目を集めています。AIスタートアップの『ディープシーク(DeepSeek)』社です。

AI業界では昨年からその登場が話題をさらっていたようなのですが、最近になり、一般のメディア、日本のメディアでも取り上げられています。

つい先日も、朝のワイドショー「羽鳥慎一・モーニングショー」で紹介されていました。

最近、当社ではnoteを始め、中国関連のニュースやコラム紹介の記事を投稿しているのですが、こちらのブログでも少し体裁を変えて掲載させていただきます。

『ディープシーク』が世界に与えたインパクトについては、CNNの記事などが参考になりました。本記事では、梁文峰CEOのインタビューをご紹介したいと思います。

  • 梁文峰CEO
  • 広東省湛江ジャンジアン市管轄下の呉川ウーチュアン市出身
  • 浙江大学にて情報・電子工程学士号、博士号を取得
  • 杭州幻方科技有限公司、DeepSeekの創立者

DeepSeekがシリコンバレーを驚かせた理由は?

Q:DeepSeek がシリコンバレーで多くの人々を驚かせた理由についてどうお考えですか?

梁CEO:米国では毎日大量のイノベーションが起きていますが、これはごく普通のことです。彼らが驚いたのは、中国企業がイノベーションの貢献者として米国に参入したからです。結局のところ、ほとんどの中国企業はイノベーションを起こすことよりも追随することに慣れています。

Q:しかし、この種の選択は中国の文脈においては贅沢過ぎると思います。大規模モデルは多額の投資を必要とするゲームであり、すべての企業が研究とイノベーションにのみ投資する資本を持っているわけではありません。商品化をまず考えるのではない、この種の選択という点についてはいかがですか?

梁CEO:イノベーションのコストは決して低くありません。過去に利用可能であったものを採用するという慣性は、過去の国家状況が一因にもなっています。しかし今では、中国の経済規模も、(TikTokの)バイトダンスやテンセントのような大企業の利益も、世界的に見て決して低くないことがわかります。イノベーションにおいて我々に欠けているのは、間違いなく「資本」ではなく、「自信」です。そして、効果的なイノベーションを実現するために、優秀な人材をどのように組織化すればよいのかがわかっていないのだと考えています。

イノベーションが起こせない中国企業の問題は?

Q:資金力のある大手企業も含め、中国企業はなぜ安易に早期の商品化を最優先にするのだと思いますか?

梁CEO:過去 30 年間、私たちは金儲けだけを重視し、イノベーションを無視してきました。イノベーションは完全にビジネス主導で行われるものではなく、好奇心と創造性も必要です。私たちはただ過去の慣性に縛られているだけなのです。しかしそれは、段階的なプロセスを踏んでいるとも言えます。

Q:しかし、あなた方は結局のところ営利組織であり、公共福祉研究機関ではありません。イノベーションを選択し、オープンソースを通じて共有しましょう。と、いうは易しですが、では、どこに(敵の侵入から身を守るための)堀を作ればよいとお考えですか?

梁CEO:破壊的なテクノロジーに直面した場合、クローズドソースによって形成された堀は長くは持ちません。オープンAI がクローズドソースであっても、他者にだし抜かれることを防ぐことはできません。そのため、私たちはチームを重視し、その過程で同僚が成長し、多くの負の経験をも積み重ね、革新できる組織と文化を形成します。それが私たちの堀です。オープンソースの論文を公開しても、実際には何も失うものはありません。技術者にとって、フォローされることは非常に達成感のある事です。実際、オープンソースは商業的な行動というよりも、文化的な行動に近いものです。与えることは実は特別な名誉なのです。企業にとって、これを実行すれば文化的な魅力も生まれます。

Q:朱啸虎ジューシャオフーのような投資の専門家についてどう思いますか?
(注:朱啸虎は中国大手投資ファンド「金沙江創業投資基金(GSR Capital)」の董事総経理を務める著名な投資専門家)

梁CEO:朱啸虎ジューシャオフーはバランス感覚に優れた投資家だと思います。ただ、彼の投資スタイルは、すぐに利益を上げたい企業に適したものだと考えます。アメリカで最も収益性の高い企業を見てみると、それらはすべて、長い時間をかけて多くの経験を積み重ねてきたハイテク企業です。

Q:しかし、大型モデルを構築する場合、単に技術力で優位に立つだけでは絶対的な優位性を獲得することは困難です。あなたが賭けているより大きなものは何ですか?

梁CEO:私たちは、中国の AI モデルが常に追随する立場にあり続ける可能性に直面しています。中国のAIと米国のAIの間には1年か2年の差があるとよく言われますが、真実はおそらく独創性と模倣性の違いでしょう。この違いがこれからもずっと変わらないのであれば、中国は永遠に追随者であり続けるでしょう。したがって、何らかの探索は避けられません。NVIDIAの優位性は、単なる1つの企業の努力の結果ではなく、西側諸国のテクノロジーコミュニティと業界全体の共同の努力の結果です。彼らは次世代の技術動向を見通すことができ、ロードマップも持っています。中国のAI開発にも、このようなエコシステムが必要です。多くの国産チップは、サポートするテクノロジーコミュニティが不足しているために開発が進まない状況です。間接的な情報しかないので、中国には技術の最前線に立つ人が必要でしょう。

DeepSeekには天才が集まっているのか?

Q:彼(恐らく朱啸虎氏のことを指す)は、ディープシークがとんでもない天才たちの集団を雇ったと考えています。実際のところ、ディープシークを作り出したのはどのような人たちなのでしょうか?

梁CEO:天才など存在しないですよ。ただ、彼らは全員、一流大学を卒業した人たちです。卒業前の博士課程のインターンもいますし、数年前に卒業したばかりの若者もいます。

Q:多くの大手モデル企業は海外からの人材採用に熱心です。この分野のトップ50の人材は中国企業にはいないのではないかと考える人が多いです。あなたの会社の人材は一体どこからやってきたのでしょう?

梁CEO:海外から帰国した人はおらず、全員地元の人です。確かにトップ50の才能は中国にはいないかもしれません。しかし、もしかしたら私たち自身でそういった人材を育て上げることもできるかもしれません。

Q:細かいところまでこだわった人材採用が得意だと聞きました。MIでは、従来とは異なる評価指標を使用して優秀な人材を選抜することができるそうですが。

梁CEO:私たちの選考基準は常に情熱と好奇心なので、ユニークな経験を持つ人材が多く、それは非常に興味深いことです。彼らにとって、研究への渇望は、お金に対する関心をはるかに上回ります。

Q:この多様な感性の誕生は、完全に革新的な組織の構造と密接に関係しているように思えます。ところで、AGIという、不確実性に満ちた最先端の研究を行う上では、管理面で煩雑となる点はありますか?

梁CEO:Deepseekはすべてボトムアップであり、通常は分業を強制せず、自然な分業で開発を行っています。誰もが独自の成長体験と独自のアイデアを持っています。それらを無視する必要はありません。開発の過程で問題があれば、仲間を集めて議論します。一方で、アイデアに魅力的な可能性を感じた場合は、必要な開発リソースを調整して充てるようにしています。

中国独自のイノベーションに向けての課題は何か?

Q:イノベーションは大部分が偶然によるものなのでしょうか?

梁CEO:イノベーションは何よりもまず信念の問題だと私は思います。シリコンバレーはなぜ革新的なのでしょうか?まず、(我々が)世の中に製品をリリースした理由は、国全体が最先端のイノベーションを起こすことに自信を失っているからです。投資家から大企業まで、誰もがその格差が大きすぎると感じています。まずは、アプリケーションを開発しましょう。しかし、イノベーションにはまず自信が必要です。この自信は、通常、若者に顕著に表れます。

Q:DeepSeek が現在、研究と探索のみを行うことを選択しているのはなぜですか?(訳註:AGIの開発に専念していることを指していると思われる。)

梁CEO:なぜなら、今最も重要なことは世界的なイノベーションの波に参加することだと私たちは考えているからです。過去何年もの間、中国企業は他社が技術革新を起こすのを待ち、それを利用してアプリケーションを開発し、収益化することに慣れていました。しかし、これは当たり前のことではありません。この波における私たちの出発点は、大金を稼ぐ機会を利用することではなく、テクノロジーの最前線に進み、エコシステム全体の発展を促進することです。

Q:経済が下降し始め、資本が循環に入った今、独創的なイノベーションに対する阻害要因が増えるのでしょうか?

梁CEO:私は、中国の産業構造の調整に際し、コア技術の革新への依存が必要とは考えません。過去に手っ取り早く金を稼げたのは時代の幸運によるものだったと多くの人が気づけば、真のイノベーションに取り組む意欲が高まるはずです。

Q:テクノロジーは本当に変化をもたらすことができるのでしょうか?絶対的な技術的秘密は存在しないともおっしゃいましたが?

梁CEO:テクノロジーには秘密はありません。しかし、作り直すには時間とお金がかかります。理論上、NVIDIAのグラフィックカードには技術的な秘密はなく、簡単にコピーできます。しかし、チームを再編成し、次世代のテクノロジーに追いつくには時間がかかります。したがって、実際の堀はまだ非常に大きいです。 

Q:インターネットとモバイルインターネットの時代を経て、多くの人は、米国は技術革新に優れ、中国は応用に優れている、という認識だと思いますが、いかがですか?

梁CEO:経済発展が進むにつれ、中国はフリーライダーではなく、徐々に貢献者にならなければならないと私たちは考えています。過去30年間のITブームの中で、私たちは基本的に本当の技術革新に参加してきませんでした。私たちはムーアの法則が空から降ってくること、家で18ヶ月も横になって待っていれば、より優れたハードウェアとソフトウェアが登場することに慣れ切っています。しかし実際には、これらは、西洋が支配するテクノロジーコミュニティの何世代にもわたるたゆまぬ努力の成果なのです。私たちがこの過程にこれまで参加したことがないからこそ、その存在を無視しているのです。

Q:国内独自のイノベーションについて、楽観視していますか?

梁CEO:私は1980年代に広東省の第5級都市で育ちました。私の父は小学校の先生です。1990年代の広東省ではお金を稼ぐチャンスがたくさんありました。当時、私の家に(同級生たちの)親がよく来ましたが、彼らは基本的に勉強は無駄だと思っていました。しかし今振り返ってみると、私の考えは変わりました。今はお金を稼ぐのが難しく、将来的には、タクシー運転手になる機会さえ失われてしまうかもしれません。一世代で物事は変わってしまいました。今後は、コアなイノベーションがますます増えていくでしょう。社会集団全体にとっての教育が必要なため、今は理解しにくいかもしれません。この社会が、筋金入りの革新的な人々の成功を許すようになると、集団の考え方が変わります。必要なのは、多くの事実の積み重ねと、プロセスだけです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました