[中国マーケティング見聞]IKEA観察から垣間見える中国世情。

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IKEA販売不振。中国を含む全ての地域で家具市場が同時減速。

家具大手IKEAの売上減少が各メディアで報じられています。以下はロイター報道の抜粋です。

スウェーデンの家具大手イケアの親会社インカ・グループが10日発表した2024年8月期決算は、売上高が396億ユーロ(433億ドル)と前年比5%減少した。住宅市場の低迷を受けて値下げしたことが響いた。

ジェスパー・ブローディン最高経営責任者(CEO)は、全ての地域で経済と家具市場がほぼ同時に減速したと指摘し、「08年以降経験したことがない」と振り返った。

他のデータとして、来店者数の鈍化(3.3%増の7億2700万人。前年7.4%増から鈍化)、新規出店41店舗の減少(前年は60店舗)、世界家具市場シェアは5.7%で横ばい、などが紹介されていました。

なお、25年度は金利低下で引越しをする人が増え、家具の購入も増え、増収を見込んでいるそうです。

売上減少の数字はグローバルでのものですが、中国においても、宜家(IKEA)の業績が不振として、中には『大幅値下げでも救えない。IKEAのソファにはもう誰も座っていない。(大降价也救不回,宜家的沙发上已经没人了)』というコラムを発表する識者もいます。

また、筆者が生活している上海では、従来の大型店舗ではなく、ショッピングモールに入る小型のIKEAのオープンが一時期話題になったものの、短期間で閉店となっています。(店舗面積3000平米の静安城市店は2020年7月オープン、2023年年末に閉店。店舗面積8500平米の楊浦商場店は2020年3月オープン、2022年7月に閉店。)

IKEAの中国1号店のオープンは1998年の上海・徐匯店。筆者はオープンまもない時期に家具や食器などを買いに行ったものですが、確かにすごい賑わいでした。北欧デザインの家具、また実際の使用シーンをダイレクトに伝えるモデルルームが新鮮でした。また、レストランにも家族連れやデートで訪れたカップルが溢れていた記憶があります。

あの時から四半世紀が過ぎ、かつての賑わいはさすがにもう望めないでしょうが、本当に近頃のIKEAは販売不振で閑古鳥が鳴いているのか?

実際に足を運んでみました。

実際にIKEA上海店舗(宝山商場店)を訪問。

実際に行ってみたのは上海の宝山商場店。店舗面積は56000平米ある従来の大型店舗。

都心から少し離れた場所で、車で行き、一度行くと数時間は滞在するという、いわゆるIKEAの昔ながらの定番のショッピング・楽しみ方で過ごす店舗です。

行ってみたのは週末の午後だったので賑わう時間帯とは思いますが、来店者は決して少なくなく、かつてのようにソファーやベッドの上でくつろぐ子連れの家族やカップルの姿も見られました。

主観的な感想になってしまいますが、かつてほどの賑わいはないにしても、取り立てて販売不振を嘆くような、ましてや“閑古鳥が鳴いている”という表現を当てはめるには少し無理があるのでは、と感じました。

ただし、売上額や来店者数などは定量的なデータとして示されているものなので、IKEAにとって直近の1年は数字が示す通りの厳しさに直面したのだと思います。

今の中国の一面が垣間見える、新たな「IKEA利用」。

一方で、中国ならではの新たな「IKEA利用」について最後に簡単にご紹介したいと思います。

一つは、「老人のお見合いでの利用」。

『上海は高齢者の出会いの聖地。愛情を求める高齢者たち。(上海这个老年相亲圣地,爷叔阿姨还在寻找爱情)』という記事によると、IKEAのレストランが再婚相手などを探す高齢者のお見合いの場所になっているというのです。

記事によると、10年以上も毎週火曜にレストランでお見合いの一角が設けられ、中には4〜5年も通って人生の最後の伴侶を探している人もいるそうです。

この参加者たちはレストランでの消費は多少するようですが、明らかに家具目当てではなく、IKEAにとってはあまり歓迎できる来店者ではないでしょう。

しかし、記事では、昔は参加者が大声で話したり、長時間テーブルを占有するので一般の来店者と衝突することもあったが、最近ではIKEA側も静観している、ということでした。

最近ではまた、「IKEA一流の仕様を拝借」、という利用のされ方もあるようです。

これは、IKEAのモデルルームにメジャーとノートを持参し、IKEAの収納デザインや仕様・サイズなどをメモして帰り、自宅の内装設計に役立てている消費者が増えている、というものです。

内装デザインを内装会社に任せたらひどい仕上がりに泣かされた人が、IKEAの一流のデザイン・仕様を拝借して問題を解決した、というお話なのですが、本来専門家であるはずの内装会社の設計水準が低く、一般の消費者が泣かされている、という中国の内装事情を窺わせる話でもあります。

上記二つの利用シーンは、いずれもIKEA側にとっては売上増に貢献するわけではなく全く有難い話ではないでしょうが、一方で「場所として居心地が良い」、「設計に対する信頼が高い」というIKEAの得難い強みを証明する話でもあります。

売上の減少や閉店など暗い話題も見られるIKEAですが、あまり望ましい形とは言えないにせよ、一般消費者との接点は維持されており、さまざまな形でトピックスとして取り上げられ常に注目が高いです。

この四半世紀、中国経済の急成長と伴走しながら業績を伸ばし認知度を高め、そして、最近の不景気で新局面を迎えているIKEA。今後の動向にも注意を払っていきたいと思います。

(本記事作成にあたり、こちらの記事『イケアの24年度売上高は5%減 値下げ響く 今年度は増収見込む』、『大幅値下げでも救えない。IKEAのソファにはもう誰も座っていない。(大降价也救不回,宜家的沙发上已经没人了)』、『上海は高齢者の出会いの聖地。愛情を求める高齢者たち。(上海这个老年相亲圣地,爷叔阿姨还在寻找爱情)』、『イケアの人気再沸騰?買い物ではなく、ノートとメジャーを持って“書き写す”消費者たち。(宜家又要“火”了?将有一大波人,冲进宜家,但不是为了购物,而是拿着本子和尺子去“抄作业”!)』を参照しました。)

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