[中国マーケティング見聞]中国のマーケティング専門家による「茅台酒」ウォッチ(後)

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昨日アップロードした前編の続きとなります。

中国マーケティング専門家の分析ーー「茅台酒が崩れた」02章。

価格の下落が止まらない「茅台酒」ですが、一方で上半期の業績は前年との比較で大きな伸びが見られました。

前編に続き、中国のマーケティング専門家・李東陽氏の分析・02、03、04章の内容を紹介します。

02.苦しむ高所得者層、中間所得者も限界。

茅台酒が市場を占う風向計として知られる理由は、その金を生む力にある。

同社発表の数字を見ると、今年上半期における貴州茅台社の売上は819億3,100万元(前年比17.76%増)に上り、純利益は416億9,600万元(前年比15.88%増)を記録した。

このうち、茅台酒事業の売上は685億6,700万元に達し、これは2023年の592億7,900万元から100億元近く増加したものだ。

どうやら、世間で交わされる議論、騒音は同社の市場でのパフォーマンスに影響を与えるものではないようだが、それでも、繁栄の底に流れるものに対しては気を配る必要がある。

以前も述べたが、高級ブランドも今や冷え込みがきつく、トレンドに逆らう値上げから転じ、値下げせざるを得ない状況にあり、消費者に頭を下げている状態である。

そして中間層の理性は、彼らのポケットには米がなく、財産は目減りし、将来の所得増に対しても希望が持てない、という事実に支えられている。

一般的な環境はこの事実を反映し、インターネット企業の配当は頭打ち、不動産市場及び株式市場は急落、経済の減速による新富裕層・中間層の高級品ニーズの減少、などが始まっている。

1つ具体例を挙げるなら、今年の中秋節の月餅の売上は前年比45.17%とほぼ半減だった。

月餅のギフト用詰め合わせ箱は異例の値引きが行われたが、それでも消費の低迷は隠せなかった。

同様の状況は映画・テレビ業界にも反映されており、拓埔研究院の「2024年上半期映画市場調査報告」のデータによると、今年上半期の本土映画の興行収入は237億7,300万元で、前年同期比9.5%の減少に終わった。また、上半期の映画観客数は前年同期比9.27%減の5億4,800万人というものだった。

皆さん、思い出してみて下さい。最後に映画館で映画を観たのはいつですか?

今年上半期の最も熱いトレンドは観光産業であろう。各地の文化観光局が継続的にプロモーションを打ち、各地でネット有名人が観光大使を務め、盛り上がりを見せた。しかしながら見落とせないのは、観光業界における上場企業会社の6割近くが前年より減益を記録したこと、張家界(湖南省にある都市。自然を活かしたスポットが多い)など一部の観光名所でさえ損失を被ったこと、という事実である。

平常時の我々の感覚とは違うようだが、消費界における論理の変化はまさにこのような「静かにして潤いを得る※1」というものだ。

不確実性に周囲を取り囲まれた時、これらの消耗品は、当然ながら多くの人が最初に出費を抑える対象となる。

白酒も同様であり、消費属性と社会属性の両方を考慮したこの手の商品は、好景気の時代には賞賛を受けるが、不況時には冷ややかに扱われる。

さらに致命的なのは、白酒は伝統的な経済と深く結びついていることである。不動産・インフラ業界が不況に陥ると、白酒の景気も回復までに時間を要するだろう。今や、新興産業の時代なのだから。

茅台酒は、自身の立場が新しいものから古いものへと変わる痛みを、未だかつて経験していないかもしれない。しかし今、市場により大きな打撃を受けているのである。

【注釈※1 】「静かにして潤いを得る」は、唐の詩人・杜甫の『春夜喜雨』の一節「潤物細無聲」を引用したもの。意味は、「細やかに音もなく物を潤して降り注ぐ」。

以上、02章は茅台酒の好調な業績を参照しつつも、不景気の昨今、茅台酒の立場はもはやかつてとは違うものであり、今後さらにその立場は危うくなるのではと分析しています。

ここでも詩の引用が見られました。前編でも書きましたが、中国のマーケティング専門家は度々このように詩を活用し分析・説明を行います。

中国マーケティング専門家の分析ーー「茅台酒が崩れた」03章。

続いて、それでは茅台酒の将来を救う層として、今の若者は茅台酒をどう見ているか、と論を進めます。

03.若者が茅台を救えるのか?

近年、年齢を問わず、多くの人の間で「なぜ若者は白酒を飲まなくなったのか?」というテーマの議論がされている。

あらゆる業界、あらゆる製品において、若者向けへと舵を切るための検討が始まると、いくつかの不合理な自己矛盾に突き当たる。

一つのブラックジョークを紹介しよう:株主総会で質問が飛んだ。「90年代、00年代以降の世代は白酒がどんどん嫌いになっている。茅台社としてどのような計画がありますか?」

答え:2000年生まれの人が大人になって40歳になると、自然と白酒が好きになります…。

しかし現実は残酷で、白酒の生産量はピークだった2016年の1,358万トンから、2023年には449万2,000トンにまで減少し、その傾向は今なお続いている。

若者が白酒を飲みたくない理由は、実際には非常に単純なものだ。まず、宴席文化への抵抗である。これは中国人なら誰でも頭が痛い問題で、この種の強制や強要は、礼儀や感情・世故、利益にさえ関係してくる。少しの不注意がトラブルを引き起こし、多くの当事者が損失を被ることになるのである。

無意識のうちに、大多数の人が悪い文化とみなしており、この慣わしのルールを受け入れることに嫌悪感を抱いている。

そしてもう一つの理由。ひどく単純な理由。単純に、白酒は美味しくないのである。

醤香、濃香、清香・・※2、どんな香りであろうとも、飲み過ぎると、液体が喉元に突き刺さるような痛みを感じる。そして、度数が高いことを誇る謎の規則に至っては、若者にとってはもはや幻惑のロジックである。

であるからして、白酒は若者をどんどん遠ざけ、両者はあからさまに平行線を走っているのに、どちらも頭を下げるつもりはないのである。

しかし、茅台社はここで行動に移す。実際、高価な茅台酒に収入が追いつく消費者はいない。そこで茅台社は2021年から神曲の演奏を始める。同社は時として、若々しい動きを見せる。

『醤香拿鉄(白酒入りラテ)』の登場は昨年のことであるが、これは天才的な戦略となった。

その後、白酒を含む飲料品は若者の視野に大量に入り込んだ。チョコレート、アイスクリーム、ソフトクリームなどなど、白酒ブランドはついに、文化の壁、消費の壁を打ち破る好機を見つけたように見えた。

しかし認めなければならない。白酒と若者の間には未だに和解はなく、茅台酒も例外ではないのである。

なぜなら、白酒は若者の消費に依存しているわけではなく、白酒にまつわる物語も若者には響かない。なので、1つや2つの大ヒット商品が生まれても、根底にある論理を揺るがすことはできないのだ。

しかし、白酒メーカーは、若返り戦略を議題に挙げる必要がある。それは今後 20 年の命運に関わるからである。

明るい未来のために、まずは夢を描き、どのような商品や物語を用いて心理的な期待を植え付けるのか、これが、白酒メーカーが考えなければいけないことだ。

【注釈※2】醤香jiang xiangは「上品でまろやかな香り」、濃香nong xiangは「各むろ(白酒を発酵させる穴蔵)特有の香り」、清香qing xiangは「クセがなくやわらかくさっぱりした香り」(日和商事サイト「乾杯白酒」参照)

『醤香拿鉄(白酒入りラテ)』については、luckin coffee(ラッキン/瑞幸咖啡)とのコラボが話題になった時期に関連記事を書きましたので、そちらをご覧ください。([中国マーケティング見聞]白酒入りラテ、売り切れ中。2023年9月15日UP)

03章では、白酒メーカーは将来の消費者である若者向けにラテやアイスクリームなどのコラボ商品でヒット商品を生み出したものの、明るい将来を確約するものではないと断じています。

中国マーケティング専門家の分析ーー「茅台酒が崩れた」04章。

04章、結論部分となります。

04.販売業者の安定が急務か?

茅台酒の衰退と将来を分析してきた。茅台酒の価格は下がり続けており、最も焦っているのはやはり販売業者である。

なんと言っても、茅台酒はただの酒製品から、高級品、金融商品とさえ言われるまでに飛躍することができたのである。転売業者の貢献もあったし、販売業者も同様に「少しは貢献してきた」。

今まで一貫して、茅台酒と販売業者の関係は複雑に錯綜しており、販売業者は何度も茅台酒を火難・水難から救い、両者は共同戦線を張り、小売り業界に奇跡を起こしてきたのである。

今に至るまで、白酒の販売方式は古く伝統的である。店頭におけるオフライン販売が生命線であり、オンラインでの販売は売上の一部分を占めるに過ぎない。

そしてまさにこのために、茅台酒の販売量が膨大であるにも関わらず、末端での価格決定権は常に販売業者が握っており、販売業者は工場出荷価格と小売価格の中間で、販売コストのバランスを取る必要があるのである。

しかし、莫大な利益を前に、誘惑に抵抗できない人々が常に存在する。販売業者が茅台に持ち込んだ問題は、茅台の発展にも影響を及ぼしている。

例えば、長年続いてきた汚職問題に対し、茅台は最盛期に3,000店以上あった販売店の数を2,000店余りまで減らすなど、販売体制に対する抜本的な改革を行った。

同時に、自社運営のオンラインプラットフォーム「i茅台」やスーパー、空港、新幹線の駅などのオフライン店舗を含む独自の直販システムの構築を強化している。データによれば、2022年の売上のうち、直販売上は 40% を占めた。

現在、茅台酒の直販システムが徐々に拡大し、末端価格が下落し続けるにつれ、販売業者は茅台酒の投機的な価値が減っていくと認識し、買い溜めした茅台酒が大量に市場に溢れ、更なる価格の混乱が引き起こされる可能性がある。

茅台にとって、販売パートナーの存続を保証することは、自身の将来を守ることでもある。茅台社の張徳欽董事長は、「販売店は茅台の家族であり、我々は今後も販売店を尊重し、配慮していく」と述べた。

太極拳をどうやるか、茅台には独自の方法論が必ずあるはず。

久しく祭壇を飾ってきた茅台は簡単には崩れまい。

しかし多くの問題があること、茅台としてそれら一つ一つに適切に対処し、ゆっくりと「地に足を着ける」※3感覚に慣れていく必要があるだろう。

【注釈※3】「地に足を着ける」の部分は、原文では「下凡xia fan」となっており、意味は「天界の神仙が下界に降りる」というもの。

前編・後編と二日に渡り、茅台酒に対する中国人マーケティング専門家・李東陽氏の分析を見てきました。

まず内容については、茅台酒の現状について、価格下落の現状、それを取り巻く様々な要因、大きくは不景気、そして消費者・特に若者の白酒離れ、その原因であるところの宴席文化への嫌悪、味の問題、そして販売業者との関係、販売チャネルの整備と、かなり網羅的です。

茅台酒の価格下落は、日本でも日経新聞で報じられるなど、注目を集めるトピックです。

この現在進行形で注目のトピック・商品に対して、様々な要素を取り上げ解説を加えている、網羅的な分析記事として非常に興味深いものでした。

そして、もう少し俯瞰的な視点として、中国人のマーケティング専門家のマーケティング文章を如何に読み解き、参考にするか?という点ですが、これは当たり前なのですが、外国人にはピンとこない詩の引用や様々な前提(例えば、茅台酒が伝統的な酒で、一般大衆からすると手の届かない高級種であること)が多く散りばめられており、読解に苦労する部分はあります。

しかしながら、丁寧に読み解いていくことで、茅台酒という高級酒を起点にしながら、中国市場の奥行き、中国の一般消費者の価値観の一端を感じることができます。

今回、茅台酒の価格動向が中国の景気と関連付けて日本のメディアでも報道されていたので、このような記事を作成してみました。今後また、興味深い中国の分析記事がありましたら取り上げてみたいと思います。

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