中国のマーケティング専門家は茅台酒をどう見ているのか。
今年7月の日経新聞で、茅台酒の値下げ現象が、中国経済の回復の遅れを象徴している、という記事を読みましたが、中国のマーケティング専門家からも、そのような意見が見られました。
日本において、日経新聞や東洋経済を始め、中国関連のビジネス記事は多い中、中国の専門家の分析を読む機会はそう多くないのでは、と思います。もちろん、日本人の読者向けに書かれてはいないので、理解しにくい部分はあるものの、中国人が中国市場をどう捉えているのかという視点も参考になることがあるかもしれません。そこには、中国のマーケティングを考える上で重要な、「中国人だからこそ持つ価値観、及びそれに基づいた市場感覚」がきっとあるはずです。
本ブログでは、中国のマーケティング専門家の分析を取り上げてみます。長い内容となるので、二回に分けてアップロードいたします。
中国マーケティング専門家の分析ーー「茅台酒が崩れた」序文部分。
本日ご紹介するのは、李東陽氏というマーケティング専門のメディアを主催している方の「茅台酒が崩れた。3億人の中間層から突き付けられる「NO」(茅台崩了,3亿中产拒绝买单)」という記事です。
日本人には理解が難しいと思われる部分に注釈を入れながら、以下紹介していきます。まずは序文の部分です。
茅台酒の価格は、経済・消費の一面を反映する鏡である。中国人にとって、最高級品であり、汎用性も高い商品の一つである「茅台酒」。
“一万粒の真珠が収められた一本の瓶を前にしては、王でさえ頭を低くする(万顷明珠一瓮收,君王到此也低头)※1”という詩に歌われたように、数千年の歴史の河を思いのまま流れてきて、人の情と世故が濃縮された茅台酒は、金融商品の核心を成すものと言えよう。
【注釈※1】この詩は、茅台酒に関連付けて引用されたもので、1862年に太平天国軍の石達開将軍が、貴州の黔西(けんせい)市を通る際に、苗(ミャオ)族から歓迎を受け、地中に長期間貯蔵され高貴な味へと熟成した醸造酒を出され、感激し読み上げたという説がある。
導入部に詩を引用するマーケット分析の文章というのは一風変わったものに思えますが、「茅台酒」の歴史と価値を説明する上では有効なのかもしれません。なお、中国のマーケティング関連の文章では詩の引用は度々見かけることがあり、浅学の筆者は困惑してしまうことが多いです。
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この後、茅台酒の価格下落に関する数字を参照しながら、茅台酒の現状が反映している中国経済の芳しくない景気についての解説に進んでいきます。
しかし最近になり、「価格下落」の怪しい雲行きが茅台の周辺を漂っている。酒価格公開情報(今日酒价公众号)によると、9月23日の「飛天茅台1本(箱付き)」卸売価格は2,365元で前日比25元減、「飛天茅台1本(バラ売り)」卸売価格は2,250元で前日比20元減であった。
中秋節から国慶節にかけて、消費のピークを迎えるこの時期に、価格はゆらゆらと変動を続けている。財テク向きで、インフレ耐性があり、決して下落しないという神話を持ち、市場で最も堅い通貨である『茅台』の価格が暴落した。
下落の原因は何か?直接結びつくのが、景気である。
茅台酒は消費者向けの商品であり、その価格は基本的には需要と供給のバランスで決まる。そのため、茅台酒は徐々に経済状況を反映する鏡となり、そして価格の変動は、消費者の自信、収入、供給面など複数の要因を偽りなく体現するようになった。
この分析記事はここまでが序文で、続けて4章構成で本文が続いていく形をとります。
中国マーケティング専門家の分析ーー「茅台酒が崩れた」01章。
01.止まらない茅台酒の価格下落に、転売業者も動揺。
「もしやり直せるのなら、絶対に茅台酒を溜め込んだりなどしない。」ーー中秋節の時期になってからの、茅台酒販売業者の本音の吐露である。
伝統的に消費行動がピークに達する中秋節でも、(茅台酒を含む)白酒市場の消費は冷え込んだままで、中秋節以降かえって価格は下落を続け、昨年比では、「飛天茅台1本(箱付き)」は610元価格が下がり、「飛天茅台1本(バラ売り)」は400元価格が下がった。
以前であれば、酒屋が喜んで扱った干支ボトル(2024年は辰年)※2が、現在は転売業者のブラックリストに載っている。
今年1月頭に発売が開始となった干支ボトル(辰年)の価格は当初は2,499元で、一度は6,000元まで高騰したものの、5月に入り3,000元を割り、8月中旬には2,800元にまで下がってしまった。
消費者は様子見で買い控えの態度を続け、需要の不足は市場に明白に現れている。
茅台以外の蒸留酒の流通価格も楽観視できるものではなく、一部の転売業者は「文創産品」※3の取り扱いを避け始めており、白酒の価格情勢に対して悲観的な見方を持ち続けている。
「飛天茅台」の市場価格の変動は販売業者にとって頭痛の種となるだけでなく、投資家の視界をも真っ暗にしている。
最近、貴州茅台社の株価は明らかな下落傾向にある。中秋節前に二日連続で下落し、累計の下落幅は6%、1,300元まで下がり、9月20日にまたしても3%近く下がり、1266元となった。
明らかな信号ーー茅台酒に対する市場の「信頼」が揺らぎ始めている。
一連の寒波を受け、貴州茅台酒廠(集団)有限責任公司の張徳欽董事長は、「当社は市場状況を非常に重視しており、市場全体は比較的安定している。」と声明を発表した。
そして、市場に対して強心剤を打ち込む目的で、9月20日から大胆な株買い戻し計画を発動した。計画の内容として、「自己資金30億元〜60億元を投入する事」、「買い戻した株は取消及び登録資本金の減額用途である事」、また、「買い戻し金額は1株当たり1795.78元を上限とする事」などを明らかにした。
貴州茅台社の上場以来23年間の歴史の中で、自社株の買い戻しは初めてのことである。
【注釈※2】「干支ボトル」とは毎年限定のそれぞれの年の干支になぞらえ限定で発売されるボトルのこと。
【注釈※3】「文創産品」とは、特殊な技術やブランディングにより独創的な文化価値を得た商品のこと。茅台酒の場合、独特な醸造方法、長期間に渡る生産工程の特長のPR、希少性を巧みに活用し高い文化価値を得ている。
上記、注釈をつけた「干支ボトル」は、このようなものです。
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ここまでで、序章、01章までとなります。
02章、03章、04章は以下のタイトルで続きます。
02章 苦しむ高所得者層、中間所得者も限界。
03章 若者が茅台を救えるのか?
04章 販売チャネルの整備が急務か?
後編にて内容をご紹介しています。。こちらのリンクからどうぞ。
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