[中国マーケティング見聞]中国社会理解を深める上で参考になる本『中国農村の現在』

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「14億分の10億」のリアルに迫る本。

本日の記事では、中国社会理解を深める上で大いに参考になる書籍『中国農村の現在』をご紹介させていただきます。

本書は、東京大学教授で農村社会学、中国地域研究者である田原史起氏の著書で、副題に『14億分の10億」のリアル』とある通り、氏の20年来の中国の農村におけるフィールドワークの成果をまとめたもので、中国人口の大部分を占める「農民」の生活の実状や価値観、また、政府の都市化政策の実状に迫った内容となっています。

本書の内容について、少しまえがき部分から引用します。

今世紀に入ってから20年来、ひたすら疾走を続け、大発展を遂げてきた中国。中国に関する情報は日々、溢れ出し、国外にいても耳に入ってくる。

でも、ふと考えると、中国の農村って、いったいどうなっているのだろうか?よくわからない。実は農村は、発展する都市の陰に、完全に取り残されているのではないか?

(中略)中国はわずか40年前まで、人口の8割程度を農民が占める、文字どおりの農民国家で、正真正銘の「発展途上国」であった。2023年現在の都市化率は60%以上といわれているが、都市に住んでいても農村に実家があり、旧正月などには農村を訪れる「農村関連人口」でいえば、まだ70%を超えているだろう。ざっと10億人である。だからこそ、農村社会を理解することは、急速に発展しグローバル大国となった現在の中国の政治や経済、さらには対外関係に至るまで、より深く知るうえで避けて通れない。

ーまえがき部分より引用。

「10億人」をどう意味づけるか。

さて、中国市場のマーケティングを考える上では、この、”ざっと10億人の農村社会”をどう捉えるかは、企業によって分かれるところと思われます。

企業によっては「農村」という時点でターゲット外ということになるかもしれませんが、弊社のお客様の中には中国全土をくまなくターゲットにしていらっしゃる企業様もいらっしゃいます。

なかなか理解の及びづらい「中国農村」について理解を深める、その上でマーケティング戦略を考える上で、本書は参考になると思います。

マーケティングを考える上で、「10億人」と一絡げにはできないので、これをどう分解するか?が、問題になってきます。

一般的な分類、例えば、沿海部・内陸部、東北・華北・華南・華東・華中などといった地域で分解する方法に加え、本書にあるように、各省の下位層(たとえば福建省であれば、直下にある福州市、さらに下位に当たる鼓楼区、台江区など6区、福清市、閩侯県、連江県など5県、合計12区・市・県の県級行政区)を、すでに都市化が進んだ『区』と、いまだ農村人口を抱える、それ以外の『県域社会』に分け、さらに、『県域社会』を細分化し、それぞれに対してマーケティング戦略を立てることも可能です。

『県域社会』の概念図を本書から引用します。

252pより引用。

「10億人」理解への第一歩として。

とはいえ実際には、『県域社会』、及び、さらに細分化したレベル(上記引用図の『県城中核部』、『県城周辺部』、『県城周縁部』、『農村部』)での細かいマーケティングの実行に切実な必要性を感じる日本企業はそれほど多くないように思います。

ただ、繰り返しとなりますが、「10億人」についてのイメージを明瞭にする意味で本書はやはり有用と思われます。

その上で、比較的大きな判断ーー例えば、「10億人」マーケットに対する優先度を少し下げ暫くペンディングする、などーーに繋げることは可能です。

やや大雑把ですが、「14億人」を優先度の高い都市人口「4億人」と、優先度の低い農村人口の「10億人」に分け、中国市場を「4億人」マーケットと捉え、マーケティング戦略を組み立てる、そういった判断のために、本書を通じて中国社会への理解を深めることは有用です。

もっとも、本書は上記引用したように、“中国の農村って、いったいどうなっているのだろうか?よくわからない”といった疑問を持つ読者層を想定しており、当然ながら、中国市場マーケティング担当者に向けて書かれたものではありません。

なので、本書をきっかけに農村人口「10億人」についてのイメージを膨らませることを第一歩として、あとは必要に応じ、「10億人」を分類し、分類したまとまり毎に、意味付け・重み付けを行う、などと落とし込みが必要となってくるかと思います。

「10億人」の思考様式が『家族主義』に基づくものであり、またそれはどのような歴史的背景に基づくものなのか、また、現在の彼らがどのような価値観に基づき人生設計を組み立てているのか、随所にケーススタディによる実像が示されており理解が進みやすい、マーケティング担当者に限らず、中国理解を深めたい方には必読の書かと思い、ご紹介させていただきました。

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