[中国マーケティング・ノウハウ(3)]

「年度報告書」記載の定性情報例

本稿では、引き続き中国ファスナー市場における重要企業であるSAB社の「年度報告書」の記載内容のうち、文章で表現された「定性情報」について紹介していきます。

但し、SAB社の研究深掘りは本稿テーマではありませんので、あくまで「年度報告書」活用の一例として、詳細は割愛しながらご紹介します。

SAB社の「年度報告書」では、第1章、第3章部分で、市場を取り巻くマクロ環境や業界の現状、競争環境、および、自社分析について記載があります。

全10章のうち、定性情報の記載は第1章、3章に集中。

定性情報例/マクロ環境(1)

以下、マクロ環境に関する記述を箇条書きで紹介します。

▼アパレル資材産業は労働集約型、且つ、繊維、アパレル産業の景気に直接的な影響を受ける産業です。
▼我が国の経済発展と産業の高度化に伴い、生産コストは上昇し、一方で環境保護意識も厳しくなっています。
▼アパレル産業の国際分業は構造的に差別化が進み、産業チェーンにおける中位・下位層は継続的に人件費低下に向かっています。
▼一方で国内の中高級ブランドのアパレル産業チェーンは成熟化に向かい、技術力や効率性は国際的な競争力を保っています。
▼消費者の生活水準の向上、高品質への追求の高まり、低炭素・環境保護への意識の高まりから、中高級ブランドの衣料品への需要は今後も増え続けるでしょう。
▼当社の経営は、国際貿易における不確実性の増加、国内経済の停滞、生産コストの継続的な上昇に影響を受けるでしょう。

以上は、第1章「重要提示、目录和释义(重要提示、目次および意味)」からの抜粋となります。

定性情報例/マクロ環境(2)

以下は、第3章「管理层讨论与分析(管理層討論および分析)」からの抜粋です。

上記マクロ環境(1)の内容よりも、具体的な数字を交えた詳述になっています。

▼ボタンやファスナーなどのアパレル資材は、繊維、衣料品、アパレル業界の重要部品であり、多品種、低単価、非標準、季節性、ファッション性などの特徴があります。
▼アパレル産業の発展、およびマクロ経済の動向と密接な関係があります。
▼2022年における我が国の繊維、衣料品、アパレル業界は多くの不安定な要素を抱え、全体的に厳しい状況に陥りました。
▼事業コストは上昇し、業界全体で運営圧力は四半期ごとに高まっています。
▼国家統計局のデータでは、2022年は国内の一定規模以上の繊維企業3万6000社の営業利益と総利益は、ぞれぞれ前年比0.9%減、24.8%減と落ち込みました。利益率は3.9%です。
▼また、2022年の「一定制限以上の衣料品、靴、帽子、ニット製品」の小売販売額は前年比6.5%減の見通しで、3月以降継続的に減少。
▼衣料品のオンライン小売販売額は前年比3.5%増。ただし、2021年との比較で成長率は4.8ポイント鈍化。
▼輸出については、海外市場ではロシア・ウクライナ紛争、大国間の対立、高インフレなど各種圧力要因はあるものの、2022年通年の我が国のアパレル輸出金額は1,754億3,000万米ドルで、前年比3.2%増加しました。
▼当社は、核心競争力の強化、および全従業員の努力により、一定の影響を受けつつも経営状況は他社より高い水準を保っています。

定性情報例/競争環境、業界発展の趨勢

以下は、マクロ環境(2)に続く形で記述されている競争環境、業界発展の趨勢に関する内容です。

同様に、一部省略しながら箇条書きで紹介します。

【競争環境】
▼繊維・アパレル産業の補助産業として、アパレル資材産業は衣料品およびアパレル企業のクラスター分布に依拠します。
▼大企業が少なく、比較的分散しており、中低価格帯製品の市場競争は熾烈を極めます。
▼近年、産業移転や国内環境保護重視の影響を受け、中小企業の存続は困難を極め、撤退が加速しています。
▼一方で消費者の消費水準向上に伴い、中高級ブランドの衣料品に対する需要が高まっています。
▼サプライチェーンにおいて川下となるアパレル企業は、アパレル資材企業に対して、生産・販売規模、デザイン、フレキシブル製造、迅速な対応とサービスの向上を要求します。
▼これら要求に応じることのできる総合的な競争力とブランドを兼ね備えた企業は競争優位性を持ち、「強い企業は常に強い」という現象が顕著となり、集中化の加速が予想されます。

【業界発展の趨勢】
▼繊維、衣料品、アパレル産業は労働集約型であり、我が国の経済発展と産業の高度化に伴い、生産コストは上昇し、また環境保護意識の高まりにより、国際的に見た比較優位性は徐々に弱まり、繊維、衣料品、アパレル産業の国際分業は構造的に進行しています。
▼中位層・低位層の産業チェーンにおいては、低人件費の国・地域への移転が進む中、国内の中高級ブランド衣料品産業は、より成熟した技術力、効率を備え、高い国際競争力を保持しています。
▼消費者の生活水準の向上、高品質への追求の高まり、低炭素・環境保護への意識の高まりから、中高級ブランドの衣料品への需要は今後も増え続けるでしょう。

以上です。

最後の「業界発展の趨勢」は、冒頭の記述とやや重複していますね。

とはいえ、文章記述により、SAB社がマクロ環境や競争環境をどのように捉えているかが伝わってきます。

では次回は、このような市場環境の中でSAB社が自社戦略の方向性をどのように描いているか、自社分析部分の内容を紹介したいと思います。

ノウハウ(4)定性情報例ー自社競争力

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